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夏を生きる
春夏秋冬 平成2年
ことしは夏の訪れが早いのでしょうか。六月の下旬から、真夏のような日が何日もありました。この分では七月八月はどんなに暑くなるのだろうかと、いささか案じられます。
しかし、天候のことはよく分かりません。長く暑い夏になるのか、それとも早く暑くなった分だけ秋の到来が早いのか、よく分かりません。分からないなりに、ことしの夏はどんな夏だろうかと、しきりに考えています。
私は、あまり夏に強い方ではありません。ひどく夏やせするとか、バテてしまうという程ではないのですが、ぐったりすることがあります。
夏の夕方、日は傾いても気温は下がらず、蒸し暑い空気はそよとも動かず、じっとしていても汗ばんでくる、そんな時は、しんどいなあ、たまらないなあと思ってしまいます。
人間だけではありません。草や木の葉もしおれ、ぐったりしているように見えます。
暑いときはどう思っても暑いものです。肉体をもって生きているかぎり、これはどうしようもありません。
しかし、そういう時でも、いやそういう時ほど、心に涼しさや爽やかさを持ちたいと思うのです。心まで萎えしぼみ、潮垂れてしまいたくないのです。
からだは汗ばみ、汗くさくなっても、心までべとべとしたくないものだと思うのです。
爽やかな笑顔ということばがあります。ことばがあるのは、そういう笑顔をしている人があるということです。
あらためて爽やかなと言わなくても、もともと笑顔というものはどこか爽やかなものです。
涼しい目もととか口もととも言います。これは持って生まれた顔立ちもありますが、やはりその人の中味から出てくるものが大きいように思います。
暑い夏でも、その人のまわりから、なにかしら爽やかな涼しげな雰囲気がただよう、そんな人が世の中にはあるものです。
きっとそういう人は、夏には夏を愛し、夏と和合し、夏には夏のよろこびやたのしみを見つけている人でしょう。じぶんも、そのような人になりたいと思うのです。
夏のたのしみやよろこびは、夏の暑さやつらさと離れた別のところにあるのではなく、暑さやつらさと紙一重のところにあるのではないでしょうか。
夏に不平を言って暮らす人は、やがて寒い冬にも不足を思う人です。それでは結局、一年中たのしい時がありません。季節季節のよい迎え方、過ごし方が、ほんとうに大切であると思います。
夏の盛り、それは真冬の厳寒の時と同様、自然がその隠れた底知れない力の一端を見せる時です。人間が自然の持つきびしさに触れる時です。
しかしまさにその時、自然はきびしさと共にやさしい贈りものも与えてくれているのです。それを見落とさないようにしたいものです。
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