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「愛情というのはそれ自体が無限なもの。だから少しでもあればそれでもう充分すぎるくらいなのさ」 学生時代、友人宅でたまたま手にした音楽雑誌に載っていた、イギリスの伝説的ミュージシャン、ピート・タウンゼントの一言。長いインタビューのほとんどは忘れてしまったが、この言葉だけが、そのときから私の心に突き刺さったままだ。 「天地の親神は人の口を借りて教えて下さる。信心している者は、子守の歌もあだに聞いてはならない」というが、私にとって、その原体験と言えるかもしれない。 愛情、それを私たちはどれほど欲していることか。愛情ほど、私たちが互いに求め合うものはない。そしてそれがいつも相手に対する不満の原因にもなる。それは私たちが形あるものばかりでなく、形なきものまでも、多くを欲して足ることを知らないからであろう。でも言われてみれば確かに、無限なものなら、今ここにあるだけでも充分なはずだ。 ちょっと夫婦喧嘩をしてしまった時、気まずい中にも、翌朝あたたかいお茶がいつもの場所に置いてくれてあったりすると、それだけで、もう充分すぎる愛を得ているのだと気づく。相手にではなく、自分の方に愛が足りなかったことに思い至る。 信心のある生活とは、思うほど堅苦しいものではなく、小さな喜びから大きな幸せを描き出す、そんな智慧で囲まれた豊かな生活のことだと、その頃からずっと信じている。 小欲知足のススメだとか、足ることを知れといった説教めいた言い方でもなく、さすがロックな響きの漂う言葉だ。ノーベル賞のボブ・ディランより、私はピートに賞をあげたい。
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